食品検査と臨床検査とは、どのようなものでしょうか?「食の安全」を守るため、市場に出回る食品について食品検査が行われていることは知られていることでしょう。一方、臨床検査は病気の治療目的で人体の状態を把握するため身体の組織を調べることです。
いずれも健康を維持するうえで欠かせません。これら2者の違いと関連性について解説しましょう。
食品検査の内容
我々の食卓に上がる食品は、加工食品や生鮮食品など様々な種類があります。いずれも国産品と輸入品があり、どちらも抽出検査が行われ安全性が確認されることが食品衛生法によって義務付けられているのです。加工食品については、特に保存料や着色料などの添加物の検査が行われます。関連>食品検査機関
生鮮野菜や魚肉については、使用される農薬や燻蒸剤の種類や量のほか付着するウィルスや微生物について検査が行われ安全性を確認しています。
そのほかの放射能やアレルゲンなど人体に有害な物質も検査することになっています。それだけでなく、成分の表示も食品表示法によって義務付けられているため、タンパク質や炭水化物などの成分も検査しなければなりません。
健康志向の風潮に後押しされて、こうした成分表示にも消費者から注目が集まるようになりました。海外からの輸入食品については、グレープフルーツなどの果物に二臭化エチレンのような防カビ剤が使用されており、人体への危険性が指摘されています。
また、チリやノルウェー産の養殖サーモンやタイやベトナムから輸入される海老などに使われている抗生物質を問題視する意見もあります。イタリア産のスパゲッティの主要原料であるデュラム小麦セモリナに、半減期の長い放射性物質のセシウム137が含有されているという指摘もありました。
こうした輸入品の食品検査により、我々の食卓の安全性は守られているのです。国産の食品についても、ph調整剤といった保存料や酸性タール色素のような合成着色料のほか、カルボキシメチルセルロースなどの増粘剤やステアロイル乳酸カルシウムといった乳化剤が使用されており、食品検査は欠かせません。
食品検査の限界
このような食品検査により一定の安全基準は保たれていると言えそうですが、あくまでも流通する全ての食品を検査できるわけではありません。一定量を無作為抽出して検査するしかないという限界があります。特に量が多い輸入食品については、一部抽出されるサンプル数が全体に対して割合が低くなってしまうことは避けられないでしょう。
また、有害物質が不検出で安全と判断された食品はそのまま市場に出回ることになりますが、実は不検出の基準が検出限界値によって左右されるため、検査機器の性能によって安全基準も変わることになります。食品検査は、厚生労働省から委託を受けた民間の検査機関が行っています。
こうした検査機関がそれぞれ検出限界値の異なる検査機器を用いていることから、同じ食品であっても不検出の数値が違ってくるのです。一般に、検出限界値が低いほど検査に時間がかかり、サンプル数も少なくせざるを得ません。
サンプル数が少なければ少ないほど、その検査結果が不検出であっても未検査の食品がどれほど安全かについて不安が残ることは否定できません。逆に、検出限界値が高ければ検査に時間がかからずサンプル数を増やすことはできます。
しかし、検出限界値が低い設定の検査機関によれば検出となるはずのサンプルが不検出と認定されることもあるため、やはり安全性の担保と言う点で疑問が残ってしまうでしょう。
臨床検査とは
臨床検査には、検体検査と生理機能検査の2つがあります。検体検査とは、人体を構成する血液や細胞から尿や便などの排泄物に至るまで様々な検体を調べる検査のことです。一方、生理機能検査とは、心電図や脳波など患者を直接調べる検査方法です。
人体から検体を採取する行為は、医師や看護師などの医療従事者にしか認められない医療行為ですが、検体検査そのものは、臨床検査技師など医療従事者でなくても行うことが可能です。このため、病院や診療所などの医療機関は民間の衛生検査所といった外部機関に臨床検査を委託しています。
血液を採取して検査すれば、輸血に必要な情報である血液型が判明することは知られているとおりです。また、赤血球や白血球の数から貧血や炎症の程度がわかります。これを血液学的検査と言います。生化学的検査では、血液中のタンパク質・ビタミン・ホルモン等の量から臓器の異常を発見できます。
さらに、免疫血清学的検査により、免疫機能が低下していないかチェックして、細菌やウイルスの種類を特定することも可能です。
微生物学的検査では、採取した細胞の一部を培養し病気の原因となる細菌等の微生物を検出したり、病理学的検査により採取した細胞を顕微鏡で観察して悪性腫瘍を発見したりすることもできます。尿検査をすれば、腎臓や肝臓の異常をチェックできるし、便検査では消化器の異常が把握できます。
また、遺伝子検査をすればDNAの異常も検出します。骨髄移植の際にドナーの骨髄液が患者に適合するかどうか調べるのも、臨床検査の1つです。もう1つの生理機能検査には、まず心電図・心音図・脈波などを調べる心臓系検査があり、心筋梗塞や心不全などの心疾患の診断材料になります。
そして、脳波検査では、電気的信号を脳波計で調査して脳神経などの異常を把握します。また、超音波検査は、エコー検査とも呼ばれ超音波を発射して人体内部から発する反射波を捉えて内臓や胎児の状態を観察する上で欠かせません。
さらに、眼底写真検査も臨床検査の1つです。眼底カメラで網膜を撮影し、動脈硬化や糖尿病など血管系の疾患の兆候を検査できます。このように生理機能検査は多方面にわたり、実効性のある治療を支えているのです。
臨床検査技術の応用
医療現場で欠かせない臨床検査は、人体の細部の変化を把握するための高度の技術が進歩しています。低コストのうえ簡便で迅速に結果がわかるメソッドが次々と開発され、生体サンプルを注入するだけで速やかに結果が判明する小さな診断キットも販売されるようになりました。
こうした臨床検査技術の日進月歩の成果が、他の分野でも生かされないか専門家により模索がされています。
食品検査に臨床検査の方法を導入する意義
先述したとおり、膨大な量の食品を一つ一つ検査することは不可能であり、食品検査には限界があります。一部のサンプルしか調査できないという事態は変えられないとしても、食品検査でも更なる質的向上ができないものか探求されるようになりました。
こうした状況を背景として、従来の食品検査ではカバーできない部分について、臨床検査技術の応用を試みる民間検査所が増えつつあります。たとえば、食肉検査においてはDNA検査を実施することにより精度の高い肉質の判定ができるようになりました。
また、食品の微生物検査を行うことで、食品の腐敗や汚染度を測ることができ、食中毒の予防に役立っています。